新リース会計基準の要!割引率が財務諸表に与える影響と適切な決定方法

新リース会計基準

記事更新日:2025/01/23

新リース会計基準の要!割引率が財務諸表に与える影響と適切な決定方法

はじめに:リース会計における割引率の重要性

IFRS16号「リース」の導入により、リース会計の世界は大きな変革を迎えています。この新基準において、割引率の決定は財務諸表に重大な影響を与える重要な要素となっています。本記事では、リース期間と割引率の相互関係、財務諸表への影響、そして適切な割引率の決定方法について詳しく解説します。

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リース期間と割引率の相互関係

期間と割引率の正の相関

リース期間と割引率には密接な関係があります。一般的に、リース期間が長くなるほど、割引率は高くなる傾向があります。これは、長期のリースほどリスクが高まるため、より高い利率が適用されるからです。

例えば、5年のリースと10年のリースを比較した場合、通常は10年のリースの方が高い割引率が適用されることになります。

割引率の決定要素

割引率を決定する際は、以下の要素を考慮する必要があります:

  1. リース期間
  2. 借手の信用リスク
  3. 担保の性質と金額
  4. 経済環境
  5. 資金調達コスト

これらの要素を総合的に評価し、適切な割引率を決定することが求められます。

割引率の種類と選択

IFRS16号では、主に以下の2種類の割引率が使用されます:

リースの計算利子率

リースの計算利子率は、リース料総額と無保証残存価値の現在価値の合計が、原資産の公正価値と貸手の当初直接コストの合計に合致するような割引率です。

例えば、自動車リースの場合:

  • リース期間:5年
  • 自動車の公正価値:1,000万円
  • 無保証残存価値:100万円
  • 年間リース料:200万円(後払い)

このような条件で、リースの計算利子率を算出します。

借手の追加借入利子率

借手の追加借入利子率は、借手が同様の期間、同様の担保で、リース料と同額の資金を借り入れるのに必要な利率です。この利率は、借手の信用力や市場金利などを考慮して決定されます。

非公開企業の簡便法

非公開企業には、リスクフリーレートを使用できる簡便法が認められています。ただし、この方法を選択すると、使用権資産とリース負債が増加する可能性があるため、慎重な検討が必要です。

財務諸表への影響

割引率の選択は、財務諸表に大きな影響を与えます。

使用権資産とリース負債への影響

割引率が高くなると、使用権資産とリース負債の計上額が減少します。逆に、割引率が低くなると、これらの計上額は増加します。

例えば、年間リース料100万円、リース期間5年のリースを考えてみましょう:

  • 割引率5%の場合:リース負債の現在価値 ≈ 432万円
  • 割引率3%の場合:リース負債の現在価値 ≈ 452万円

このように、わずか2%の割引率の違いで、20万円もの差が生じることがあります。

損益計算書への影響

割引率は、減価償却費と支払利息の配分にも影響を与えます。
割引率が高いほど:

  • リース期間にわたる減価償却費は減少
  • 支払利息が増加

これにより、リース期間の前半では費用が多く計上され、後半では費用が少なく計上される傾向があります。

主要な財務指標への影響

高い割引率を使用した場合、以下のような財務指標への影響が予想されます:

  1. 負債比率/レバレッジ比率:低下
  2. 資産回転率:上昇
  3. 流動比率:上昇
  4. 営業利益/EBIT:増加
  5. EBITDA:変化なし
  6. インタレスト・カバレッジレシオ:低下

これらの影響を考慮し、企業の財務戦略に合わせた適切な割引率の選択が重要となります。

割引率の決定プロセス

3ステップ・アプローチ

割引率の決定には、以下の3ステップ・アプローチが有効です:

  1. ベースレートの決定:リスクフリーレートや市場金利を基準に設定
  2. 信用スプレッドの追加:借手の信用リスクを反映
  3. リース特有の調整:担保や期間などリース固有の要素を考慮

例えば、5年物国債金利が0.5%、借手の信用スプレッドが1.5%、リース特有の調整が0.5%の場合、割引率は2.5%となります。

ポートフォリオ・アプローチ

IFRS16号では、特性が類似したリースのポートフォリオに対して単一の割引率を適用することが認められています。このアプローチを採用する際は、以下の要素を考慮します:

  • 経済環境
  • リース期間
  • 原資産のクラス

例えば、同じ国内の事務所ビルで、残存リース期間が3〜5年のリースをグループ化し、単一の割引率を適用するといった方法が考えられます。

実務上の課題と対応策

システム対応

新リース会計基準に対応するためには、リース管理システムの導入や既存システムの改修が必要となります。主な機能として:

  • リース契約情報の一元管理
  • 割引率の自動計算機能
  • 使用権資産とリース負債の再測定機能
  • 開示資料の自動作成機能

これらの機能を備えたシステムを導入することで、効率的なリース管理が可能となります。

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業務プロセスの見直し

割引率の決定には、会計部門だけでなく、財務部門や各事業部門の協力が必要です。以下のようなプロセスの整備が重要です:

  1. リース契約情報の収集・更新プロセス
  2. 割引率決定のための承認プロセス
  3. 定期的な見直しプロセス
  4. 開示資料の作成・レビュープロセス

これらのプロセスを明確化し、関係部門間の連携を強化することで、適切な割引率の決定と管理が可能となります。

開示要件への対応

IFRS16号では、割引率に関する詳細な開示が求められています。主な開示項目には:

  • 使用した割引率の範囲
  • 加重平均割引率
  • 割引率の決定方法

これらの情報を適切に開示するためには、データの収集と管理体制の整備が不可欠です。

まとめ:適切な割引率決定の重要性

リース会計における割引率の決定は、単なる数値の選択ではありません。それは企業の財務状態や経営指標に直接的な影響を与える重要な判断事項です。

適切な割引率の決定のためには、以下の点に注意が必要です:

  1. リース期間と割引率の相互関係を理解すること
  2. 財務諸表への影響を十分に分析すること
  3. 体系的な決定プロセスを確立すること
  4. システムと業務プロセスを適切に整備すること
  5. 開示要件に適切に対応すること

これらの点に留意しつつ、自社の事業特性や財務戦略を踏まえた適切な割引率の決定を行うことが、IFRS16号への対応の鍵となります。

割引率の決定は確かに複雑で課題の多い作業ですが、同時にリース取引の実態をより適切に財務諸表に反映させる機会でもあります。この機会を活かし、より透明性の高い財務報告と戦略的なリース管理を実現することが、企業の持続的な成長につながるのです。

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グローバルクラウドERP multibookは2020年にIFRS16号リース資産管理に対応した機能をリリース済みですので、これからやってくる新リース会計基準の要件も概ね既に実装済みです。IFRS16号対応においては主に連結財務諸表をターゲットとしていましたので、今後新リース会計基準の適用開始に向けて個別財務諸表をターゲットにした各種機能増強を実施する予定です。

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この記事を書いた人

田村 創一

株式会社マルチブック
執行役員/CXO
IFRS16号/新リースソリューション推進部 部長

慶應義塾大学経済学部卒。在学中に公認会計士二次試験合格。卒業後、大手生命保険情報システム会社に入社し、SAP導入プロジェクトに従事。2002年、マルチブック(旧社名:ティーディー・アンド・カンパニー)に入社後も一貫してSAPシステムコンサルティング事業に携わりつつ、取締役CFO、取締役業務推進担当などを歴任。「multibook」事業立ち上げや設計にも関与する。2021年7月、SAPシステムコンサルティング事業のキャップジェミニ社への移転に伴い移籍。2023年4月マルチブックに舞い戻り、サービスデリバリ部門統括責任者に就任。25年以上の会計・ERP経験を有する。

この記事を書いた人

マルチブック編集部

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