不正会計防止に有効なシェアードサービスとは?

シェアードサービス

記事更新日:2023/11/14

不正会計防止に有効なシェアードサービスとは?

企業の不正会計が事業を揺るがすリスクとなる中、その防止策として注目されているのがシェアードサービスです。ワンストップでサービスを受けられ、コスト削減やグローバル展開の実現そして内部牽制などのメリットがあります。さらに、ERPとの連携やクラウドとの融合により、より強固なガバナンスを構築できるのです。
本記事では、不正会計防止に有効性を発揮するシェアードサービスの具体的な活用法や、その未来について解説していきます。

不正会計のリスクと防止策

不正会計とは、財務諸表を意図的に改ざんしたり、経営状態の適切な把握に必要な情報を隠蔽したりすることをいいます。企業による財務諸表の操作、架空取引、利益の過大表示など、数々の手口があります。不正会計が発覚した場合、社内での対応に追われるばかりではなく、企業の信頼性は大きく低下し顧客や取引先からの信用も失われる可能性があります。それに伴う、直接的な弁護士、フォレンジックサービスなどに加え副次的な経済的損失までを加えると計り知れません。最悪の事態は企業倒産となることもあります。したがって、適切なガバナンスとコンプライアンスの下、企業はこの不正会計を防止することが求められるのです。

不正会計の一般的な手口

不正会計の手口は多岐にわたります。一例を挙げてみましょう。まず、会計年度の終わりに差し迫ったときに、未回収の売掛金を一時的に減らすように見せかけるため、売上を過大に計上するという手口があります。また、一部の企業では取引が存在しないにもかかわらず架空の取引を作成し、売上を水増しするような行為も行われます。グローバル化が進む中、海外子会社を巻き込んでグループ企業間で会社の業績を良く見せるため、あるいは経営者の報酬を増やすために利益調整をするなど不正な会計記帳が行われることもあるのです。故意に会計のルールを無視した行為は、最悪の事態では倒産につながるだけでなく、法的な制裁を経営者や会社が受ける可能性もあるので注意が必要です。

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不正会計防止のためのコーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスとは企業の組織運営をどのように行うべきかという原則の一つです。日本語では「企業統治」という意味です。企業が健全な経営を行うために、組織での不正や不祥事を未然に防いで、公正な判断や運営が行えるように監視・統制をする仕組みのことであり、その目的は、企業の長期的な成功と持続可能性を確保することです。したがって、不正会計を防止するためには、企業はガバナンスに取り組む必要があります。特に内部監査はその一環として重要な役割を果たします。内部監査は、企業の監査役や社内担当者が行います。財務会計や業務などについて調査・評価し、報告と助言を行います。上場企業や大企業など、会社法などに基づき内部監査を実施しなければならない企業もありますが、全ての企業において必須なわけではありません。そのため社内チェックの仕組みが対象外の企業においては緩くなりがちです。この監査手続きを通じて不適切な会計処理や詐欺的な行為を発見することがあり、著者も実際に過去の実体験からも、不正を発見することはもちろんのこと、予防的な視点においても大切な業務だと言えます。

コンプライアンスと不正会計防止

コンプライアンスは、企業が法律や規則、社内の規範やルールを守ることです。したがって、不正会計防止体制を構築するうえで欠かすことのできない要素となります。近年では、コンプライアンスの概念・意味は広がり、企業倫理や社会道徳、就業規則などの規則・ルールを守るという意味でも広く利用されています。そのため社内でのコンプライアンス教育の推進やホットラインの設置など、企業自身が内部監査組織のみならず自己監査の体制を整えることで不正会計のみならず、社内の様々なリスクを大幅に減らすことが可能です。また、これらの施策は、従業員がコンプライアンスを理解し、予防強化するためのツールとしても活用することができます。

シェアードサービスの概要とその効果

近年、多くの企業がシェアードサービスという業態を導入することで、業績の向上を実現しています。シェアードサービスとは経営資源を効率化し、共有することで全社的な業績向上を目指す組織を指します。個々の業務(個別最適)ではなく、企業全体の効率化(全体最適)に焦点を当てている点が特徴になります。一見、コストの削減だけを目指す手法のように感じられるかもしれませんが、その実態は極めて効率化を追求する手法を持っています。シェアードサービスは、業務の一部を第三者にアウトソースするアウトソーシングとは性格を異にしています。各部門が行っていた業務を統合し、一元管理することで無駄な業務を排除し、全体のパフォーマンス向上を目指しているのです。そのため、企業業績への貢献はもちろん、社内プロセスの抜けから生じる不正防止にも有効な手段として評価されており、経理や財務などで行うことで不正会計の防止にも効果を発揮しています。

シェアードサービスとは

シェアードサービスとは、企業や企業グループ自体が保有する業務や人的資源を全体で共有し使用する取り組みです。企業全体の業務を見つめ直し、同じような業務が各部門で重複していないか、また、無駄なコストが発生していないかをチェックし、業務を共有化し、共通化することで業務効率を向上させるとともに、最終的にコスト削減を実現する手法です。この取り組みは一部門だけの問題ではなく、全社的な取り組みとして推進する必要があります。また、近年ではITの進化によりクラウドシステムやAIなどを活用し、データの一元管理を可能とし、業務の効率化を図る事ができます。シェアードサービスが導入された企業では業務効率が向上するだけでなく、精度の高い経営判断を行うための情報が一元的に集約され、経営の速度と透明性が向上するというメリットもあります。

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シェアードサービスのコスト削減効果

シェアードサービスの経営手法についての起源は諸説ありますが、1980年代に米国GE社でその概念が誕生したと言われています。その後、様々な企業で導入され各企業グループの利益向上に大きく貢献してきました。その理由の一つが、コスト削減にあります。具体的には、同じような業務を各部門で重複して行われている場合に、シェアードサービスを導入することでその業務を一元化し、集中化と経験曲線による作業単位時間の削減と管理の手間を実現します。その結果、全体的な業務効率が向上するとともに、コスト削減につながります。例えば、経理業務や人事業務など、多くの企業や子会社で共通して行われている業務を国内海外を問わず一元化することで、各部門が別々に業務を遂行するよりも大幅なコスト削減と効率化が可能となります。これにより、企業全体としての競争力を向上させることができるのです。

グローバル戦略を実現するシェアードサービス

シェアードサービスを導入することで、企業のグローバル戦略を支えるための基盤作りが進むでしょう。グローバル展開を果たすにあたっては、異なる地域、異なる国の法律や文化などに対応する必要があります。この時、重要となるのが、企業グループ全体としての一体感を持ち、情報を迅速かつ正確に共有できる体制です。そこで役立つのが、データを一元化・共有化するシェアードサービス的な発想です。ダイナミックに変化する外部環境に対応し、企業全体として動くための内部システムを導入することで、迅速かつ適切な対応を行うことが可能です。また、クラウドやSaaSを用いてグローバルな視点で最適な業務プロセスを把握し、より安心安全なガバナンスに基づいた、健全な業績向上にも寄与するでしょう。それゆえ、シェアードサービスは単なるコスト削減手法ではなく、企業全体として価値を提供するためには欠かせない存在になっているのです。既に欧米企業では一般化されているシェアードサービスも、今後は日本企業のグローバル化に伴いその取組み事例が増えていくでしょう。

シェアードサービスとERPの関係性

シェアードサービスとは、企業内の各部署に共通する業務を一元的に集約し、一括して処理する手法のことを指します。バックオフィス業務の効率化を図れるだけでなく、コストダウン、サービスの質向上、業務プロセスの認識などといった複数のメリットがあります。一方、ERPは企業の全体のプロセスを一元で管理し、特にヒト、モノ、カネの経営資源を可視化し最適な配分を実現するための統合管理システムのことを指します。この2つの仕組みを組み合わせることで企業の経営効率やパフォーマンスは格段に向上します。

ERPの基本的な役割

ERPシステムのその役割は大きく分けると二つ。一つ目は、企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ)を一元管理し、それらを可視化した上で最適化を図ることです。これにより、経営資源の無駄遣いを防ぎ、グループ企業全体での生産性向上を実現します。二つ目は、企業全体の経営資源情報をリアルタイムで共有し、迅速かつ正確な経営判断を下す基盤を提供することです。これにより、迅速な意思決定とその実行による競争優位性の獲得を可能にします。どちらの役割もエンタープライズ全体の経営効率向上に直結し、シェアードサービスとの連携によってその効果を最大化できるのです。

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ERPとシェアードサービスの連携

シェアードサービスとERPを連携させることで、企業全体の業務効率を大幅に向上させることが可能となります。ERPは各部門のデータを一元化し、そのデータを活用して意思決定を助けるツールとなります。一方、シェアードサービスはそれぞれの部門が個別に行っていた業務を一元化し、業務の効率化、標準化を実現します。つまり、ERPによって経営資源のデータがグループ統合され、シェアードサービスにより人と組織が統合します。このことで、生産性高く精度の高いデータがERP上に実現し、マネジメントにおいてはデータを活用した迅速かつ正確な意思決定が可能となります。また、シェアードサービスによる業務の標準化は、ERPの導入をスムーズに行うための基盤ともなり、そのメリットを最大限に引き出すことが可能になります。

シェアードサービスでのシステム導入の重要性

シェアードサービスにおけるシステム導入の重要性は、業務の効率化、標準化はもちろんのこと、その結果生じるコスト削減や、リアルタイムでの情報共有が可能となることにあります。特にERPのような経営情報管理システムを導入することで、企業全体の経営資源や業務の可視化が可能となりますので、経営判断や業務の効果を評価する時に役立ちます。また、システムの導入を合わせて行うことで、シェアードサービスそのもののメリットをさらに倍増させることも可能となるのです。シェアードサービスで用いられる標準化や平準化というキーワードはERP導入においても用いられることがあるように、非常に親和性の高い経営手法なのです。このことから、シェアードサービスを活用する企業にとって、システム導入の重要性は非常に高いと言えます。

不正会計防止のためのシェアードサービスの具体的な活用法

不正会計防止の重要な手段として注目されているのがシェアードサービスの活用です。無駄な経費を削減し、業務効率を上げるために多くの企業が導入を進めています。では、具体的にシェアードサービスをどのように活用することで不正会計を防げるのでしょうか。そのポイントについて解説していきます。

クラウドを活用した不正会計のリスク管理

クラウドサービスを活用することで、不正会計のリスクを管理する新たな可能性が広がります。クラウドサービスは、場所を問わずにデータをリアルタイムに共有できるため、不正行為を即座に検知し、対応することが可能です。また、クラウド上にデータを保存することで、データの改ざんや流出のリスクを軽減できます。さらに、データ分析ツールを用いることで、不正行為の早期発見が可能になります。特に著者がERPを活用した体制で重要視するのがERPのマスタ管理の重要性です。複雑なシステムを正しく動作させるため、そして正しく分析を行うためにはマスタデータが正しくある必要があります。クラウド環境があれば、企業はグループ会社全体のマスタ管理を統合することが可能となり、不要な勘定科目、取引先、製品や価格などの情報を整理し、極力シンプルに、一元化して管理することが可能となります。

不正を見抜くリアルタイム監視体制の構築

不正会計防止のためには、リアルタイムでの監視体制が欠かせません。シェアードサービスを活用することで、システム間のデータ連携を強化し、リアルタイム監視が可能となります。海外においては記帳代行で3週間から2ヵ月など、本社が前月の業績数値を把握するまでに非常に長いリードタイムを必要としているようなサービスがあります。会計データは生鮮食品と同じです。グループで決めた5〜10営業日などで、グループ会社の数値情報を規定の基準に基づいて集計することで、その後の迅速な不正検知や経営判断が可能になりますが、特に海外進出直後は、このERPシステムによるグループ経理をおろそかにする企業がみられます。予防コストは失敗コストよりも安いものです。不正が発生してからの対応ではなく、予防にコストの考え方を取り入れていきましょう。不正行為が発生した場合でも、記帳代行業者任せのシステムではなく自社でERPを導入しておけば、おかしな点をすぐキャッチし、速やかに対策を講じることができます。また、データの異常を検知するシステムも導入することで、不正行為の早期発見・防止につながります。

シェアードサービスを通じたコンプライアンスの強化

シェアードサービスを介して、コンプライアンスの強化も図れます。会計に関連する各部門が同じ情報を共有し、それぞれが責任を持って業務を行う体制を作ることで、一部の不正行為を防ぐことにつながります。さらに、コンプライアンス教育を徹底し、倫理観の醸成に努めることで、より効果的な不正会計防止策を講じることができます。これらのコンプライアンス教育は欧米企業に比べて日本企業はおろそかにしがちです。グローバル経営の時代においてはシェアードサービスで実現した事例やノウハウを関係企業にも展開、教育することにより、企業グループ全体の信頼性を高め、持続的な成長を実現できるでしょう。

不正会計防止に向けたシェアードサービスの未来

経理や人事などのバックオフィス業務を中心に、シェアードサービスの導入が進む中、その未来には大きな期待が寄せられています。特に、不正会計防止の観点からのその可能性は計り知れません。近年の技術の進歩は、企業の経営リスクを高める一因ともなっており、その中でも不正会計のリスクは特に顕著です。しかし、シェアードサービスの進化とともに、これらのリスクへの対応策も変わってきています。

シェアードサービスとAIの融合による不正会計の早期発見

シェアードサービスの導入により、業務が一元化され、データの標準化が進むことで、グローバル規模でのデータ整合性が保たれ、比較分析が容易になります。この結果、データ間の違和感や不整合がAI技術を用いてリアルタイムで検出されるようになります。これにより、不正の兆候や予兆を早期にキャッチし、事前にリスクを回避することが可能となります。
さらに、データの標準化と整合性が高まることで、不正行為を行う際のハードルが高まり、結果として不正が発生しにくい環境が醸成されます。このようなサイクルが、シェアードサービスとAIの融合によって生まれ、不正会計防止の新たなフロンティアとして期待されています。

シェアードサービスに関するよくある誤解とその解説

シェアードサービスに関する誤解や偏見は少なくありません。特に、「シェアードサービス=コスト削減」という単純なイメージが持たれがちです。しかし、その真の目的は、組織の効率化や品質向上、そしてリスク管理の強化にあります。

実際、シェアードサービスを導入することで、組織内の業務プロセスが標準化され、それに伴い、業務の透明性やトレーサビリティが向上します。これにより、不正会計のリスクを低減するとともに、組織全体のコンプライアンス体制を強化することができるのです。

また、シェアードサービスは、組織の成長や変革をサポートする重要なツールとしての役割も果たしています。新しい市場やビジネスモデルへの対応、M&Aや事業再編などの大きな経営判断を下す際にも、シェアードサービスの存在は不可欠です。

以上のように、シェアードサービスは、単なるコスト削減の手段ではなく、組織の持続的な成長や変革を支える重要な存在として、今後もその役割を拡大していくことが期待されています。

まとめ

不正会計は、企業の信頼性を大きく損なうリスクを持つ一方で、その防止策としてシェアードサービスの導入が注目されています。不正会計の一般的な手口から、それを防止するためのコーポレートガバナンスやコンプライアンスの取り組みまで、その重要性をお伝えしてきました。

シェアードサービスは、企業や企業グループ自体が保有する業務や人的資源を全体で共有し使用する取り組みであり、業績の向上だけでなく、不正会計の防止にも効果を発揮しています。特に、グローバルな視点での業務の最適化やコスト削減効果、グローバル戦略の実現をサポートする役割が強調されています。ERPシステムをグループ共通の プラットフォームとして導入することにより、これらのシェアードサービスの効果はさらに増幅されます。ERPは、組織内の情報を一元化し、業務プロセスを統合することで、シェアードサービスの持つポテンシャルを最大限に引き出す役割を果たします。

最後に、シェアードサービスは単なるコスト削減手法ではなく、企業全体としての価値をたかめていくための重要な手段であることが明らかにされています。今後のグローバルなビジネス環境下で、シェアードサービスの重要性はさらに増していくことが期待されてます。

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この記事を書いた人

渡部 学

日系半導体商社にて経理、IT、シェアードサービス、海外業務統括、総務の責任者を経て、香港現地のM&Aに伴う買収先のPMIに従事。その後アジアパシフィック全域の財務統括を担う。帰国後は外資系医療機器製造業の日本法人におけるCFOとしてグローバル企業のリーダー職に従事。2019年株式会社マルチブックにCFOとして参画しM&Aによる資金調達をリード。2021年CEO就任。

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