カスタマーサクセスの重要指標、ネットレベニューリテンションは株価に強い相関あり

社長ブログ

記事更新日:2022/02/14

カスタマーサクセスの重要指標、ネットレベニューリテンションは株価に強い相関あり

OpenView社VPのクリス・ガートナーさんの寄稿した2021年12月8日付けの記事「Customer Success: Leading Growth Beyond Contract Close」に、カスタマーサクセスに関する有益な記事がありましたので参照翻訳しつつコメントをします。(私の翻訳ですので原文の確認をお願いします。)

引用サイト:Customer Success: Leading Growth Beyond Contract Close

契約締結後における、カスタマーサクセスの重要性が増大

Product-led growth (PLG)と呼ばれるビジネスモデルは、企業の顧客獲得に対する考え方に大きな変化を与えました。かつては(ライセンス商売を指して)営業活動による受注契約がカスタマー・サクセスに引き継がれる顧客の先行投資でした。それが今では、最初の受注契約は、より大きな収益の拡大機会(そして将来の収益の大部分)へとつながる足掛かりに過ぎず、継続的かつ複雑な旅の始まりとなっています。

その長い顧客との旅の大部分を担うのが、カスタマー・サクセスであり、この組織グループは当然のことながら今注目を集め始めています。PLGというビジネスモデルのおかげで、組織は既存顧客からの収益拡大に、より重点を置くようになりました。

カスタマーサクセスチームは、これまで以上に、ライフサイクルのあらゆる段階で顧客を理解し、エンゲージする必要があります。顧客のあらゆる側面に関し、リアルタイムで洞察を提供する独自のツールと、それを具体的な行動に移すための自動化およびプロセス管理の機能が必要とされています。

「成功する顧客は、幸せな顧客です。成功する顧客は幸せな顧客であり、幸せな顧客は長く付き合い、あなたの会社を友人に薦める。これが、カスタマーサクセスがSaaS企業の成功にとって重要な部分であり、PLGアプローチを採用する企業にとって特に重要なことなのです。” by David Apple – ZingTree/Chief Revenue Officer & Notion/Fmr Head of CS

カスタマーサクセスの背景

PLGにおける重要性に踏み込む前に、カスタマーサクセス機能の背景とその関連性をより一般的に説明します。クラウドサービスが登場し、企業がライセンス販売やオンプレミス型のビジネスモデルからサブスクリプションモデルに移行するにつれ、先進的な方たちはカスタマージャーニーに違いがあることに気づきました。それは、販売後に顧客を積極的に取り込むことが必要になってきたということです。SaaSは、顧客の選択可能性を高め、利用した分だけを支払い、もし価値がないと感じればいつでもそのサービスの利用を停止することができるからです。これにより、顧客にとっては総所有コストとスイッチングコストが大幅に削減され、一方でサービスベンダーにとっては販売後の取組の重要性が高まりました。このことは、(顧客にとって)サービスの契約価値が今までの先行投資としての形から、長期にわたって抽出されてくるようになったことを意味しています。

たとえば、従来のライセンスモデルでは、顧客はライセンス の前払いに加え、その後の定期的な保守料 (20%程度) を支払います。一方で、サブスクリプション・モデルでは、顧客はユーザー数に基づいて毎月定期的な料金を支払います。

下の表を見てください。仮に、ある顧客を獲得するために営業や広告などで8万ドルの費用がかかったとします。ライセンス・モデルの場合、その顧客獲得コストは初期費用10万ドルですぐに補填されるため、顧客が解約することになっても(もちろん理想的ではありませんが)、金銭的な損失にはなりません。しかし、SaaSモデルでは、顧客は5年間で18万ドルとオンプレよりも多くの価値を提供してくれるかもしれませんが、8万ドル損益分岐点には3年目までかかるため、企業側が損をしないためには、3年後まで顧客を維持する必要があります!

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利用による料金設定(従量)の台頭とカスタマーサクセス

このことは、SaaSやサブスクとして、ソフトウエア系のビジネスで最近導入が進んでいる価格モデルである「利用ベースの価格設定」において、より顕著に現れています。いわゆる従量課金制であるため、顧客側の選択権と購買力がさらに高くなっているのです!  SaaSの場合、契約内容にもよりますが、顧客は少なくとも1ヶ月分の料金を支払っています。使用ベースであれば、毎日価値を見いだしたり、製品やサービスを使う必要性を感じなければ、もう追加でお金を支払う必要が全くなくなるのです

このように、顧客の生涯価値は、旧来型のライセンス販売と異なりその契約初年度で回収されることはなくなり、実際には数年に渡り分散されることになりました。このことにより、契約後の更新、維持、拡大がこれまで以上に重要なバリュードライバーとなりました。そのため、カスタマーサクセスが重要な役割として浮上したのです。参考情報としてVitally社の「State of CS Report」では、回答者の77%が、今後1年間で自社の売上成長の最大50%をカスタマーサクセスがけん引していく考えていると伝えています。

カスタマーサクセスの成功の測り方

カスタマーサクセスは、既存の顧客と対話し、製品が最も効果的に使用されていることを確認し、アップセルの方法を見つけ、顧客の全体的な使用率を拡大する責任を負っています。最も一般的な測定方法は、ネットダラーリテンション(以下、NDR:Net Dollar Retention)です。

※記事ではネットダラーリテンションが用いられていますが、日本で一般的に言われるネットレベニューリテンション(NRR:Net Revenue Retention)と同意で、金額ベースの売上継続率を指します。計算式は、(期末MRR-期中チャーン)÷期初MRRで求めます。

SaaSの投資家なら誰でも、これはB2B SaaS企業の健全性と長期的な可能性を示す最も重要な指標のひとつだと言うでしょう。また、企業の全体的な評価に影響を与える要因にもなり得ます。当社の2021年財務・経営ベンチマークレポートでは、収益性から成長性へと優先順位のシフトが進む中、売上トップラインの成長が上場SaaSの評価に与える影響に注目しています。しかし、同じことがNDRにも言えると考えています。例えば、現在のSaaS上場企業のインデックス(リテンションデータを報告している企業のみ)を見ると、「事業価値 / 売上倍率」と「Net Dollar Retention」の相関は、「売上成長率」との相関より高いことが分かります。


このNDRのもつ力強さを、11月21日時点でのNDRが169%あるSnowflake社で表現すると、彼らは、新規の顧客を1人も獲得することなく前年比70%もの成長が可能なのです!

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(著者補足)本編では売上ではなく、LTVと記されているが、本翻訳ではチャートに合わせて売上という言葉を用いています。またグラフは、事業価値(EV)を売上で割った倍率を縦軸に、横軸にNDR(左図)、売上成長率(右図)を散布図で表して相関係数による比較を行っています。

マーケットの評価には様々な要因が影響しますが、NDRが1%上昇することで評価が0.6倍以上上昇するというのはインパクトがあります。マーケットは基本的に、顧客を維持するだけでなく継続するに不可欠な製品を作り、長期にわたり拡大(=NDRを大きくさせる)を続ける企業にプレミアムを払うと言っているのです。

(著者コメント)このグラフは決定係数R2を表示していますが、回帰式y=α+βxで表される値は記載されていませんでした。よって決定係数の62%(相関係数0.79)を用いてそのまま評価が0.6倍以上上昇するという表現がしっくりいかなかったのですが強い相関があり、売上成長よりも傾きが大きいことも明らかであるためそのまま引用します。

ー---翻訳は以上ですー---

カスタマーサクセスにNDRは必須

これらのことよりNDR,NRRと呼ばれる売上継続率は、SaaS企業経営にとって重要なことはわかるかと思います。直近の記事にわれらが日本のスーパーSaaSであるSmartHRさんの記事もありましたので、こちらもリンクをしておきます。SmartHRさんは、このNDRから更に踏み込んで「グロスレベニューチャーンレート」という数値について言及されています。この指標は、収益ベースで算出する解約率で「当月の解約で失ったMRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)÷ 先月末時点でのMRR」といった計算方法で算出しています。この指標を強く意識しながらカスタマーサクセス部門のみならず、全社的な指標として定めていることが印象的です。

SaaS企業が恐れる「解約率」との正しい向き合い方 継続率99%を超えるSmartHRに聞く

ERP/会計システムは、NDRを高めやすい

さて、翻って当社のクラウド型ERP「multibook」は、サービスの特性から継続されやすいサービス形態の一つであると考えています。それは会計データやロジスティクスのデータは継続性が重んじられていること、オペレーションに多くの部門が関与するためスイッチングコストが高いことが考えられます。

そのためクラウド型ERP/会計サービスの特徴としては入口である導入の顧客負荷を極力下げ早期導入&稼働を実現することによりmultibookサービスへの利用開始を促し、カスタマーサクセスによるサポートをしっかり行うことにより長期にわたり顧客の成長の旅路にお付き合いできる特長があると考えています。

つまり、売上継続率が他のSaaS企業よりも高くなり事業価値、株主価値があがり投資家にとっても魅力的な業界だと言えます。FreeeさんやMoneyForwardさんが高い株主価値を出しているのもこういった背景も一つの要因ではないでしょうか。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。カスタマーサクセス部門は当社においても重要なセクションとして昨年より強化を始めています。このネットレベニューリテンションを意識した経営は合理的だなと改めて思いましたので今回共有させてもらいました。

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この記事を書いた人

渡部 学

日系半導体商社にて経理、IT、シェアードサービス、海外業務統括、総務の責任者を経て、香港現地のM&Aに伴う買収先のPMIに従事。その後アジアパシフィック全域の財務統括を担う。帰国後は外資系医療機器製造業の日本法人におけるCFOとしてグローバル企業のリーダー職に従事。2019年株式会社マルチブックにCFOとして参画しM&Aによる資金調達をリード。2021年CEO就任。

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