移転価格税制とは?適用ケースと移転価格税の計算方法も解説
会計
記事更新日:2021/07/28
こんにちは。multibook編集部です。
今回は海外に子会社を設立し、グループ会社間で取引を行う際に考える必要があることの1つである移転価格税制について説明します。
税財源に占める法人税の割合が高い東南アジアでは、新型コロナウイルスの影響で財政が悪化した事をうけ、財政出動を外資系企業への課税で賄うために移転価格へのチェック体制を強化しようとする動きがあります。
一方で、日本企業はこのような税務への対応が手薄だと言われており、海外拠点運営において移転価格税制への早急な対応は欠かせません。営業や生産部門の出身で海外駐在を任せられた方や、急激に成長する海外事業を持つ企業の管理担当者で今まで移転価格に無縁であった方等にとっても分かりやすい内容となっておりますので、是非ご一読下さい。
※参考:日本経済新聞2021年5月16日
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目次
移転価格税制とは何か
移転価格税制は1968年に導入されました。移転価格税制とは自国における税収確保を目的とし、国境をまたぐ取引で発生する所得に対しては、一方の国が関連会社間の価格調整によって他国に流れた税金を自国に取り戻す課税制度です。
なぜ移転価格税が設定されるのか
海外子会社を巻き込む企業の動き
移転価格税制が設定されるそもそもの要因として、企業が海外子会社を利用し節税を行うことにあります。
では、どのようにして海外子会社節税が可能になるのでしょうか。
それは、「国によって法人税の税率が異なる」ことを利用し節税を考えるのです。
簡単な例を使って解説いたします。日本の法人税率は30%、中国は25%です。また、税前利益(税金を払う前の利益)は日本、中国でそれぞれ1億円だとします。すると日本での法人税は3000万円(1億円x30%)、中国では2500万円(1億円x25%)となります。
そして、税前利益から法人税を控除した税引き後の最終利益は日本では7000万円、中国では7500万円、つまり中国と日本で利益が500万円もの差が出るのです。もしあなたの事業の最終利益率が10%であれば、実に5000万円もの売上高に匹敵する差となります。
このような各国の法人税の違いにより、日本で製造する製品を海外で販売する企業であれば下記のような考えを持つようになりませんか?
①日本より低い税率の国で利益を出せばより儲かる
②海外子会社に商品をより低価格で販売(現地での仕入に相当)し、海外利益を増やし支払う税金を増やし、日本での利益を減らして支払う税金を減らそう
特に、①は法人税や源泉課税などがゼロまたはゼロに近いタックスヘイブン(租税回避地)で事業を行えば日本で事業をするよりお得!とする仕組みと同じです。これらを言い換えれば、より税率の高い国で費用や損を計上し、より税率の低い国で収益を計上することで企業グループ全体でみた税金の総額を少なくする(つまり節税)ようになります。
企業の動きを踏まえた国の動き
このように企業が節税を行うことによって困るのは、利益を少なくされてしまった国側です。なぜなら本来得られるはずだった税収が得られなくなってしまうからです。そこで、海外子会社に商品を低価格で販売し、海外で支払う税金を増やして日本で支払う税金を減らそうとする企業に課税を行うことによって税収の流出を防ごうという動きが発生します。これが、移転価格税が設定されている背景です。
移転価格税が適用される場合
ここまで移転価格税制について説明をしてきましたが、改めて移転価格とはどのようなものなのでしょうか。移転価格とは企業のグループにおける取引価格のことです。例えば日本の自動車メーカーが海外子会社に対して自動車を輸出(販売)する際の取引価格が、移転価格となります。
移転価格税が発生するのは、グループ間で利用した移転価格と基準価格となる第三者との取引価格である「独立企業間価格」が異なる場合です。
独立企業間価格とは
“本来利害関係のある国外企業の当事者間(独立企業間)取引で成立すると認められる価格のこと。英語表記はALP(arm’s length price)。
グループ内、同一利害関係者グループ間の取引では優遇価格を用いられることが多いため、移転価格税制においては、第三者との公正な取引価格である「独立企業間価格」による取引を行ったとみなした利益について課税を行う。” (引用:野村證券株式会社)
移転価格税が適用される具体例
ここからは、下記の図を利用し解説致します。上部の関連者間取引では国外関連者(海外子会社)には110円という移転価格にて販売しているのに対し、下部の第三者間取引では国外の第三者(グループ外企業)に120円で販売しております。こうなると困るのが日本政府となります。
なぜなら本来得られるべきだった税収が得られなくなってしまうからです。そのため対策として、日本の税務当局は「10円の利益を海外に転移した」とし、第三者への販売価格と同じ120円の価格に課税するのです。海外に支払う税金がなくなるわけではないので、日本・海外の両方に税金を支払う「二重課税」が発生してしまいます。
これが移転価格税制が適用された場合となります。
※参照:財務省
移転価格税の計算方法
移転価格税制において所得税は、海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税します。
ちなみに、この移転価格税制の基準となる「独立企業間価格」は、日本においてはOECD移転価格ガイドラインにおいて以下のような国際的に認められた方法に沿って算定されています。
【基本3法】
・独立価格批准法
・再販売価格基準
・原価基準法
また、OECD移転価格ガイドラインは以下のようになっています。
OECD移転価格ガイドラインとは
“OECD移転価格ガイドラインは、適切に各国の課税権を配分し、二重課税を回避することを目的として作成されたものである。具体的には、移転価格の算定方法及び移転価格課税問題の解決方法を示し、税務当局間又は税務当局と多国籍企業との間の紛争を最小化し、企業活動の円滑化に資することを意図している。”(引用:財務省)
おわりに
このように移転価格税制とは、海外との取引で発生する所得に関して、会社が関連会社との取引価格の調整により本来得られるはずの税収を国外に流出する事を防ぐ目的で設定された課税制度であることが分かります。
海外関連会社との取引における価格設定は複雑で専門的な知識が必要となり、一般的な対応方法としては、どのような考えで運用をおこなっているのかのポリシーの作成や、ローカルファイルと呼ばれる検証文書の作成を行う、あるいは事前に税務当局と打合せを行っておく(APA制度)等の対応をとっておくことが大事になります。
ある程度の規模に事業が成長している時に、移転価格税制が適用されると追加徴税が多額になるおそれもあるため、国際税務に強い税理士からアドバイスを受けることをおすすめします。
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